Interview

015. 歴史あるお寺と調和しながらも、家族が安心して暮らせる家

南都七大寺のひとつである「大安寺」。その一角に、ある家族の新しい住まいが完成しました。古から続く歴史的建造物が多い奈良県には、通常よりも厳しい建築基準が設けられている土地が少なくありません。独自の地域事情や建築条件に詳しいことも、kinotoの強みのひとつ。今回は、大安寺の敷地内に暮らすご家族の家づくりについてご紹介させていただきます。

お寺の空気と調和した風情ある外観。
中に入れば、快適な住空間。

ガン封じをはじめ、ダルマのおみくじがいたるところに置かれていることでも知られる大安寺。以前、kinotoのコラムでもご紹介させていただきましたが、実は日本初の「公共のお寺」として創建されたという歴史あるお寺です。

敷地内には、住職さんやその家族が暮らす住空間も存在しています。今回kinotoの取材班が訪問させていただいたのは、副住職であるKさまと奥さま、そして2人のお子さまが暮らす新しい住まいです。

真っ白な無垢の壁に、厄除けの意味合いもある鬼瓦がとても印象的な建物。その風貌は、お寺の雰囲気にしっくりと馴染んでいます。

「お寺と調和した外観するのは、僕たちがいちばん強く望んだことでした。お寺の参拝者さまをはじめ、この家に遊びに来た友人さえも、外観を見ただけでは住まいだと気づかないほど。お寺の雰囲気に合わせてもらえたと感じています」と、教えてくださったのはご主人です。

この地域に生まれ育った奥さまとの結婚を機に大阪から奈良へ移り住んだというご主人。修業を経て、現在はお寺の副住職として活躍されています。

「以前は、近くの賃貸マンションに家族3人で暮らしていました。でも、下の子がまだお腹にいるタイミングで新しい住まいを考えるようになって」と、奥さま。当時、Kさまご家族は一軒家ではなく、マンションの購入を検討されていたそうです。

「最初は、お寺の敷地内に自分たちの住まいをつくろうとは考えていませんでした。貴重なお寺の一部を使うことになりますし、何より、敷地はすべて史跡に登録されているので建築に関する基準がとても厳しいんです。新しく建てるとなると専門的な申請が必要ですし、場所によってはたった数センチ掘り返すこともできません。そうした背景もあり、"近くのマンションに住むのがベターだね"と夫婦で話していました」

「建てるかどうか」よりも「建てられるかどうか」。
その難題を、kinotoがクリアに。

マンションをメインに考えていたKさま一家の住まい探し。では一体、どのようにしてkinotoと出会ったのでしょうか。

「kinotoの存在は以前から知っていました。お寺から徒歩圏内ですし、ギャラリーができた当初から"なんだかおしゃれな建物が近所にできたな"と気になっていたので。それに、お寺の寺務所などを直すときに何度かkinotoに相談させてもらっていると、私の母からも聞いていました」と、奥さま。

そんなご縁もあり、マンション探しと並行してkinotoに「お寺の敷地内に私たちの家を建てることは可能なのか」と相談してみたそうです。

「一応、聞くだけ聞いてみよう」という、半ば諦めつつの相談。しかし、kinotoから提案された家づくりのプランを見て、その想いが一変したのだとか。

「建築の専門知識がまったくない僕たちの代わりに、kinotoは土地の条件や建築の基準について丁寧に調べてくれていました。おまけに、基準に則った具体的なプランまで提案してくれて。まだ依頼するかもわからない僕たちに対して、とても献身的に対応してくれたことに感動したんです。"この方法なら敷地内でも安心して家を建てられますよ!"と言われ、嬉しかったのを覚えています」

Kさまの家が建っているのは、もともと雑木林だった場所。ここならお寺の価値を損なうことなく住まいが建築できるとわかり、とても安心したそうです。

「恐らく、全国展開しているようなハウスメーカーさんや家づくりの技術だけに長けた企業さんなら、うちの土地条件を見ただけで匙を投げられていたと思います。そのぐらい、歴史的価値のある土地での建築は難しいことなんです。奈良の土地事情に詳しいkinotoだからこそ、成せる技なのでしょうね」と、ご主人は感心している様子でした。

ちなみに、最初にkinotoが提案したプランは1階建ての平屋。しかし、それではおふたりが検討していたマンションの専有面積よりも少し狭かったそうです。

「広さを取るか場所を取るかを悩んでいたら、kinotoはすぐに2階建ての別プランを用意してくれました。1階がリビングとキッチンと寝室、2階が個室と書斎、物入れスペース......その間取りを見て、"これなら家族4人でも安心して暮らせるね"と決断したんです」と、奥さまは言います。

暖房が必要ないくらいあたたかい。
そのぬくもりが、家族の時間をさらに心地よく。

「実は僕、昔から"一軒家は寒い"というイメージを抱いていたのですが、住んでみてそんな感覚はまったくなかったですね。木のぬくもりか、断熱材の効果か、太陽の光なのか......素人なので専門的な理由はわからないのですが、これだけあたたかいとは予想していませんでした。今も、暖房器具はまったく使っていないんですよ」と、ご主人。

取材班が訪れたのは12月上旬。確かに、コートを脱いでリビングで過ごしていても、まったく寒さを感じません。むしろ、さまざまな角度から太陽の光が家の中に入り込んできて、気持ちがいいぐらいです。

「ウッドデッキの向こうはお寺の駐車場になっていますが、プライバシーはしっかりと守られています。この木の幅や高さをどうするかは、建築中に現場の棟梁さんと一緒に話し合いながら決めたんですよ。棟梁さんが木の板を持って動かして、それを僕が駐車場に立って見ながら、"もうちょっと上、もうちょっと上......そこ!そこです!"なんてやり取りをして。おかげで、太陽の光を迎え入れつつ、人の目は気にならない、いちばん快適な設計にしてもらえました」

kinotoの担当者によると、Kさまの家づくりで特にこだわったのは「収納力」。確かに家の中を見回すと、スキマを生かした収納スペースが至るところに存在しています。

お話を聞いていたテーブルのサイドにある収納棚は、もともと持っていたテーブルの高さに合わせて調整をしているそうです。

「以前から私たちが使っている家具を写真に撮って見せたりサイズを伝えたりして、"だったら、この高さの収納棚をつくりましょう""この照明なら、こんな雰囲気のお部屋が合いますね"と、私たちの持ち物に合わせて提案してくれたんです」と、奥さま。

また、リビングには壁にスッキリ収納できるタイプのデスクも設置。手で持ってひょいと降ろすだけで、リビングの一角がたちまちワークスペースに。お子さまたちが大きくなり、宿題などをするようになったときのことを考えて取り付けたそうです。同じ要領で、ランドリールームにはアイロン台スペースを設置。シーンによって空間の切り替えができることも、ある種の「収納力」なのかもしれません。

kinotoへの信頼が、そのままかたちに。
kinotoへの要望も、しっかりかたちに。

kinotoが提案した2階建てプランの内容が、ほとんどそのままかたちになっていると話すKさまご夫婦。その理由は「kinotoを信頼していたから」。この人たちに任せていたら、自分たちがあれこれ要望を言うよりもステキにしてくれるだろうという想いがあったそうです。

「基本はすべて提案そのままです。でも、ちょっとでも気になるところを話すと、kinotoはすぐに対応してくれますね。例えば、キッチンも最初はとてもたくさん収納スペースを設けてくれていましたが、実は私があまりキッチンでものをたくさん使用するタイプではなくて。収納スペースを多く設けるよりも、一部を飾り棚できないかとお願いしました。今、その棚にはお気に入りの食器などを置いていますが、自分の好きなものがいつでも目に入ってくるのは、なんだか嬉しくなりますよ」と、奥さま。

「それから、むしろ、建てた後の方がいろいろ相談に乗ってもらっているかもですね。洗面台に収納スペースを増やしたいだとか、ウッドデッキに日除けのシートを張れるようにしたいだとか、いろいろとお願いをしていますが、些細なことでもすぐに話を聞いて"こうしたらどうでしょう"と提案してくれるのでとても助かっています」

"家族が集まる家"。"自分の空間がちゃんとある家"。
この家は、ご夫婦の気持ちの中間地点。

「子どもたちはいつも、リビングを中心に家の中を楽しそうに走り回っていますね」と、奥さま。でも、ご自身が幼少期の頃は自室で過ごす時間の方が多かったのだとか。

「私は、ひとりっ子というのもあって、自室で過ごす時間の方が多かったよう思います。だから、リビングで家族が集まる光景にちょっと憧れもあって」

一方、ご主人の幼少期は3人兄弟、家族5人のマンション暮らし。自分だけの部屋がなく、家族全員がリビングで過ごすのが日常だったそう。

「男3人、毎日リビングで布団敷いて寝て......もうちょっと、プライベートゾーンがあってもよかったなという想いがありました。この家は、僕たちの実体験や理想のちょうど中間ぐらいの空間になっているように感じます」と、ご主人。

リビングという家族が集まる空間が中心にありつつも、家族それぞれがプライベートな時間を確保できる空間もあるステキなお家。それが、この家のポイントなのかもしれません。

「家族の寝室や僕の書斎として使っている空間も、子どもたちの成長に合わせて用途を変えていければいいなと考えています。そのときはまたkinotoに相談すればいちばんいい方法を考えてくれるでしょうしね」

決めつけず、家族の成長に合わせて変えられる余白をあえてのこす。それが、Kさまご家族の暮らしのコツ。

お寺の敷地内という、事例の少ない条件下でも「家族の快適さ」をいちばんに考えられた家づくり。子どもたちがのびのびと暮らす様子が垣間見えるKさま一家の暮らしの様子に、とても癒されました。