Interview

014. 家族の成長や変化を、ずっと見守り続けてきた築12年の家

初めて家を建てるときは「みんながどんな風にして土地を探し、家を建てたのか」が気になるところ。でも、それがわかってくると次は「家を建てた後、その家族はどう過ごしているのか」も気になってきますよね。そこで今回は、引き渡しから12年が経つというNさまのお家を訪ねて「建てたときのことと、現在の暮らしについて」お話をうかがいました。kinotoのスタッフに加え、設計を担当した連合設計社市谷建築事務所のスタッフもオンラインで参加しています。

完成から12年。
家族の暮らしの変化を紐とく。

ご夫婦と2人の娘さん、そして息子さんでの5人暮らしからスタートしたNさま一家の家。2010年に引き渡しが完了してから12年。今では上の娘さん2人が独立し、家族3人での生活を送っているそうです。しかし、よく見ると家の中にはベビーベッドや小さい子どもが遊ぶような木馬などが。もしかするとこれは......

「そうなんです。その辺りのものは孫が使っています。保育園に通っている子と、まだ小さい赤ん坊の2人。娘家族の住まいがすぐ近くなのでこの家で過ごすことが多くて。普段はもっといろんなおもちゃが広がっているんですよ」と、奥さま。

現在は3人暮らしではあるものの、遊び盛りのお孫さんがいるのが日常の風景に。ご主人がちょうど1年前に定年退職されたこともあり、最近は奥さまとご主人が交代で、お孫さんの保育園のお迎えもされているそうです。

現在の暮らしの様子も気になるところですが、まずは施工当時のことから、いろいろとお話を聞いていきましょう。

「ここは元々、私の実家が建っていた敷地でした。母屋と離れのような構造になっていて、そこに私たち家族も住んでいたんです。でも、子どもたちが小学校、中学校を卒業する中で当時の家が少し手狭になってきて。同じ頃、私の母親が他界したという背景もあり、この場所で新しく家を建てようという話になりました」そう教えてくれたのはご主人です。

昔から雑貨を集めたりするのが好きだという奥さまは、無垢の木や塗り壁といった自然素材を扱った注文住宅に以前から興味を持っていたそう。家を建てると決めてからは娘さんと手分けして地元の工務店などを調べたり、住宅展示場を見て回ったり......その過程でkinotoを知ったのだとか。

「自然素材を使っているところや、地元産の素材を大切にしているところにすごく惹かれましたね」と、ご主人はkinotoのスタッフに改めて決め手を伝えます。

住む人の想いをどうカタチにしていくか。
設計担当者と当時を振り返る。

Nさま一家のお家は、施工や計画などの担当はkinotoですが、設計は東京にある連合設計社市谷建築事務所が担っています。そこで今回は、取材の途中に担当設計士さんにもオンラインで参加いただきました。

PC画面に写っているのは、設計を担当したSさん。Nさまご夫婦も、こうやってSさんと対面で会話をするのは久しぶりだそう。でも、すぐに当時の思い出話に花が咲きはじめました。

「Sさんはすごく話しやすい人柄の方で。私たちが以前住んでいた家にも何度も足を運んでくれて、実際に使っている家具などを見ながら細かい設計やディティールを考えてくださったんですよね。"これは新しい家でも使おうと思っています""これは新しく買い直すつもりなんです"という話もしっかりと聞いてくれて」と、奥さまが当時を思い出しながら教えてくれます。

「きっと、私たちの日常生活にあわせて新しい家全体をコーディネートしてくれていたんだろうね」と、ご主人も納得顔。

Sさんも施工時の記憶は鮮明に残っているそうで、当時のエピソードを教えてくれます。

「計画を進める中でいちばん注力していたのは"Nさまご家族のご要望をどうやってかたちにしていくか"でした。中でも、ずっと頭に残っていたのが、"若草山が見たい"という言葉ですね」

「まさに、Sさんが計ってくださった通りの景色を毎日眺めています。2階のベランダからは、若草山の景色や薬師寺の東塔が実によく見える。年明けすぐの山焼きや、お盆の送り火を見るのは我が家の恒例ですね。東塔は解体修理が行われていた時期もありましたが、今は、立派な東塔の様子が見える。有り難いなと感じていますよ」と、ご主人の言葉を聞いて、Sさんの表情はますますゆるみます。

「あと、私が気になっているのは奥さまの集めている小物などがいい感じに増えているかどうかですね。当時も、照明やタイル、ドアノブなどは奥さまが購入されたものを"これを使ってほしい"と持ってきてくださっていましたが、今はどんな感じですか?」そう問いかけるSさんに、奥さまは「順調に増えていますね」と笑顔で返します。

その後、しばしの歓談を経て、オンラインでの再会は終了に。「また、いつでも遊びに来てくださいね」「いつも年賀状ありがとうございます」という言葉から、直接会う機会はなかなか訪れなくても、長く深い関係が築けていることがうかがえました。

子どもたちが巣立ったあとの空間は、
趣味やお孫さんとの時間を充実させる空間に。

オンラインでの再会を楽しんだ後は、実際に2階の様子も拝見させていただきました。

「2階は子どもたちの部屋と、私と娘たちとで共同で使えるオープンクロークがあります。娘2人が独立してからは、私が趣味に使う部屋になっていますね」と、奥さま。

娘さんが勉強などに使っていた木製のデスクにはミシンや裁縫セットが置かれ、すっかり奥さまの趣味のスペースに。ちなみに、奥さまがこの日着用されていた真っ白なトップスも、手作りなのだとか。

でも、娘さんやお孫さんたちが泊まる際にグッスリと眠れるよう、各部屋のベッドや基本的な家具の配置などは当時のままにしているそうです。

「生まれたばかりの下の孫が女の子なので、その子にもこれからいろいろ作ってあげられればなと思います」

さらに、家のところどころに飾ってある北欧文化のモビール「ヒンメリ」も、奥さまのお手製。風が通るたびにゆらゆらと揺れる様子を見ていると、いつもよりゆっくりと時間が流れていくようです。

また、家の中を歩いていて気になるのは、ベランダや窓の手前、個室など、各スペースに置かれている観葉植物。「最初は全部数百円で購入した小さい鉢だったんですよ」と奥さまは言いますが、とてもそうは思えないほど、立派に育っています。

「この家を建てるとき、光が入ってきて、風が通る家にしたいということも伝えていたんです。1階のリビングや2階のベランダの手前などは太陽のあたたかい光を感じますし、窓を開ければ夏の時期でも風の流れが感じられる......そういう環境にしてもらえたからか、どんどん育って。鉢をわけたりしているうちに数も増えちゃって」と、奥さま。

実は、kinotoのスタッフも何度か株をわけてもらったことがあるそう。植物の成長がそんなにも早いのは、きっと、自然の効果を家の中にしっかりと取りこめている証拠なのかもしれません。

丁寧に、大切に過ごしてきた日常。
その蓄積が、美しい経年変化をもたらす。

実際に家の中をめぐらせてもらうとよくわかるのが、「とても丁寧に住まわれている」ということ。

10年以上のときが経過しても真っ白なままの無垢の壁、丁寧に掃除された薪ストーブ、ほどよく馴染んだ木の床や天井、美しく剪定された庭木......どこを見渡しても、Nさまご家族がこの家をとても大切に想っていることが伝わってきます。引き渡しから現在までに、何かトラブルや修繕などは行ってきたのでしょうか。

「もちろん、何度かありますよ。天然のものなので伸縮してしまうのか、天井の木が浮いたときはすぐにkinotoに連絡して対応してもらいました。あとは......外観の修繕を何回かと、2階の洗面台の取り替えですね。どれも、全部何かあればkinotoにお願いしています」

そう話す奥さまに、「でも、Nさまはすごく丁寧に使ってくださていますよ。やっぱり無垢の壁などは時間が経っても白いままでいることが多いんですが、それでも大切に扱ってくださっているのがすごく伝わってきます」と返すkinotoのスタッフ。

真摯に行ったkinotoの家づくりと、その想いに応えてくださるかのように丁寧な暮らしを続けてきてださったNさま一家。その関係が、この家の美しい経年変化につながっているのかもしれません。

家族のかたちが変わっても、
家で過ごす時間はずっと快適で心地いい。

「コロナ禍になって、"巣ごもり"という言葉をよく耳にするようになりましたが、私の感覚ではこの家ができてからの12年。ずっと巣ごもり生活を楽しませてもらっている感覚ですね。家の中で過ごす時間がずっと快適で。雨の日は庭のしっとりとした景色をリビングのソファに座って眺め、冬場はそこのストーブで薪を焚いて暖を取る......どんな日を過ごしていても、自分たちの"巣"という感覚がしっくりくるんです」と、ご主人。

特に定年退職後は、庭に出て自分で木を剪定したり、お孫さんと過ごしたりする時間もより増えて、家で過ごす毎日を心から楽しまれているのだとか。

「息子が学生の頃は野球をやっていたので、庭はピッチャー場にも使えるようになっていたんですよね。でも、今は孫がキックバイクで遊んだり、暑い時期はプールを広げたりして過ごしています。そうやって、世代に合わせて、その子に合わせていろんな用途が楽しめるのがいいですね」と、奥さまも。

家族みんなの声を活かしてつくった家は、世代をこえてお孫さんも楽しめる家に。ご夫婦のお話からは、子どもの独立や定年退職といったライフスタイルの変化があっても、ずっと快適に過ごせていることがとてもよく伝わってきました。